ECOだより





人の手でゲノムを変え、変異をコントロールします。


品種改良の歴史 は、自然界で起きた突然変異により性質が変化したものを選抜することから始まり、異なる品種をかけ合わせる交配育種(品種改良)、別の生物の遺伝子を組込む遺伝子組換え作物(1996年に実用化・日本では商業栽培禁止ですが加工用や飼料用で輸入されている)が利用され、今回のゲノム編集技術にまで至っています。



私たち人類は自然現象による遺伝子の突然変異を利用してきました。
その典型が米や小麦などの穀物の品種改良です。

稲や小麦の先祖種は籾が落ちやすいという性質がありましたが、籾が落ちにくくなる突然変異が起きたものが選抜されてきました。たくさん実っても倒れにくく背が低くなったのも突然変異の選抜でした。

トマトも元々の野生種は毒を持った小さい実しかつけませんが、長い年月をかけた育種の結果、おいしく栽培しやすい様々なトマトが生まれています。ナスが受粉をしなくても果実が大きくなるのも突然変異の選抜です。

キャベツ、カリフラワー、ブロッコリーは同一の種に属します。どれも元はカラシナから品種改良の積み重ねで誕生しています。


目的の突然変異 が起きるのを待つだけでは効率が悪いので、新しい品種を作るためによく使われているのが性質の異なる品種同士を交配する方法です。

様々な品種の中から目的の性質を持つ(例:美味しい品種と病気に強い品種)ものを選び受粉させて種子を取ります(交配)。すると美味しい品種の遺伝子と美味しくない品種の遺伝子、病気に強い遺伝子と弱い遺伝子の両方を持つ種子ができます。

生育して目的の性質に近い変異が起きたものを選び(選抜)、さらに交配の親として用いた品種と交配させる作業を何回も繰り返すことで不要な性質(遺伝子)が必要な性質(遺伝子)に置き換わったものを選抜していきます。



新品種の開発 性質が安定すれば新品種が完成です。新しい品種を作るまでには稲で約10年、果樹では何十年もかかります。「ゴールド20世紀梨」は88.8テラベクレルのかなり大きい線量の放射線(ガンマ線)照射によって遺伝子変異をおこない品種登録できるまでに約30年を費やしています。品種改良における放射線照射での突然変異を誘導して育成された品種については安全性の確認基準はありません。

これまでの育種では無作為に突然変異が起きるため、予期せぬ形質も発生していますが、都合の悪い性質は交配と選抜によって取り除いています。ゲノム編集も都合の悪い形質となる変異は交配と選抜により除くことができるので健康への悪影響が発生する可能性は非常に低いと考えられています。

安全性の見極め ゲノム編集食品を流通する際の確認基準は、新たなアレルギーの原因(アレルゲン)や有害物質が作られていないか、食品中の栄養素などがどう変化したかとなっています。

厚労省は、ゲノム編集は自然界に見られる突然変異や異なる品種を掛け合わせる従来の品種改良と変わりはないとして、安全性審査は不要であり開発した企業等の「届出」だけで表示の義務化をしないこととしました。

消費者庁も2019年6月遺伝子配列の変化は人の手の加わらない自然界でも常に起きており、従来の品種改良食品との違いを科学的に検証できないとの理由で表示の義務化は困難としました。表示を義務付けても真実かどうかを確かめる検査方法がないため追求のしようがないとの結論です。

企業の届出制の前に事前相談のシステムを敷いて専門家による安全性審査の必要性が審議されますが、届出制には罰則もないので、届出をしない事業者が現れることも考えられます。
アメリカは従来の品種改良と区別ができないとして安全性審査は不要としています。
EU(ヨーロッパ連合)では遺伝子組換えと同じ規制をすべきと判断しています。


リスクも懸念? ゲノム編集は精度の高い技術ではあるのですが、誤って狙った遺伝子とは違う遺伝子を切ってしまう(オフターゲット変異)と別の遺伝子が新たに働き意図していない性質の作物となってアレルゲンとなる食の安全上の問題も起こりえます。

ジャガイモは日光にさらされると毒を生成し緑色に変色しますが、オフターゲットによって変色作用の遺伝子を切断すると、毒が生成されても緑色に変色しなくなります。



また、複数のDNA(遺伝子)切断酵素を導入して同時に異なる遺伝子を変異させることも可能ですので、予想外の作用がもたらされることも否定できません。

ゲノム編集食品はそれ特有の遺伝子配列を持っていることになるので、それを調べれば特定は可能なのですが、これはどの遺伝子機能を壊したのかというゲノム情報が公開されていればの話となりまして企業秘密とされた場合の検証は困難です。


ゲノム編集食品が本当に安全な技術といえるなら医科
学的な裏付けのもとに販売を許可して、隠蔽の要素をなくした表示を消費者に提供すべきで、それは開発企業の誠実さを示すうえでも当然と考えますが、いかがでしょうか。



ゲノム情報を応用した農業、畜産漁業、医療
農業
現在の人口増加率が維持されると世界人口が増加し食糧不足による紛争が起きると予測されており、2050年までに作物生産量を向上させる必要があります。ゲノム編集による病害虫や異常気象にも耐えうる作物生産が期待されています。

畜産漁業
家畜の飼育、魚貝の養殖工程で発生する病気の予防や治療にゲノム編集の利用が始まります。

医療
癌や希少疾病のための創薬研究。遺伝子診断による遺伝性疾患の原因遺伝子を取り除き発症の予防。
腫瘍性疾患やHIV、既存治療法の改良などゲノム編集の応用により病気の診断、予防、治療の進歩が期待されます。





「ゲノム編集食品の流通が始まります。」はコチラ >>